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Vol.127 【出版記念インタビュー】いま伝えたい、緑内障との向き合い方


「眼圧が高い人の病気」という理解は不正確

―緑内障とはどのような病気か、あらためて教えてください。
緑内障は、目から脳に視覚の信号を送る視神経が何らかの理由で障害され、視野が欠けていく病気です。「眼圧が高い人の病気」と思われがちですが、日本人の緑内障の種類を調べると約7割が「正常眼圧緑内障」(眼圧が正常範囲内にもかかわらず発症する緑内障)。眼圧が正常だからといって、油断はできないわけです。

10〜20年という長い時間をかけて徐々に神経細胞が壊れ、視野の欠けがゆっくりと進行し、症状を自覚しづらいことが緑内障の特徴です。これは、左右の目で補いながら物を見ているため、緑内障の中期になってもなかなか視野の欠けに気付けないから。日本緑内障学会の調査では、発症した人の約9割が症状を自覚していませんでした。だからこそ、発症リスクが高くなる40歳を過ぎたら、定期的に検査を受けることが大切です。
視野障害が表れる手前の「前視野緑内障」の段階で気付き、できるだけ早期から対応することがポイント。昨今ではOCT(光干渉断層計)といった医療機器の活用により、網膜などの変化をより早くとらえられるようになっています。
国内の緑内障患者数は約500万人といわれており、40歳以上の20人に1人、70歳以上の10人に1人程度が罹患していることが分かっています。眼圧が高くても低くても、決して他人事ではありません。人生100年時代と呼ばれる今、緑内障は「国民病」になりつつあるのではないかと思っています。

診療や検査を遠ざけたコロナ禍の弊害

―コロナ禍を経て、緑内障の治療にも何かしら影響があったでしょうか?
新型コロナウイルス感染症の流行下では、多くの方が外出制限せざるを得ない状況になり、緑内障の治療も、定期的な診療や検査が難しくなりました。当院では、来院する患者さまが最大で半数程度まで減った時期もあります。思うように医療を提供できず、医師としてつらい気持ちでいっぱいでした。
実際、こうした受診控えにより視野障害が進行したと考えられる症例に、状況が落ち着いてから少なからず出合いました。特殊な状況下で仕方のないこととは言え、ずいぶん状態が悪くなっている患者さまもおり、本当に残念でした。これはしっかり調査する必要があると思い、当院のデータ(2020年1月〜2022年5月)を基に分析し、日本眼科学会で報告しました。緑内障患者さまのコロナ禍による受診中断は16・5%、それによって視野障害が予想より悪化した症例は54・4%に上り、定期的な診療の重要性が示唆される結果となりました。
コロナ禍の経験を経て、私自身の心境にも変化が起こりました。緑内障のことを、患者さまやご家族、さらに広く一般の皆さまに知っていただく意義は大きいとあらためて実感したのです。直接関わることができない方にも正しい知識を広めたいという思いが、『いちばん親切でくわしい緑内障の教科書』誕生のきっかけとなりました。

失明するって本当? 緑内障のロードマップ(本書P12-13より)

「予防・治療・症例」の多方面から緑内障を解説

―その『いちばん親切でくわしい緑内障の教科書』について、もう少し詳しく教えてください。
これまで出版した本は、いずれも治療の話題が中心でした。しかし、今回の本は、緑内障の患者さまはもちろん、そのご家族や健康な方にも緑内障という病気を知ってもらうことが目的。そこで、緑内障を「予防・治療・症例」の多方面から分かりやすい言葉で解説することを心掛けました。緑内障というワントピックで、予防法から検査、点眼薬や手術の種類までを書き上げたのは初めてです。
例えば予防という観点では、緑内障を遠ざけるために大切な「やめる習慣・始める習慣」という章を設けています。何気ない生活習慣の中にも、眼圧を上げてしまったり目の負担を増やしたりする可能性があるNG習慣が含まれています。「行動」「食事」など分野ごとに注意したい習慣、加えて望ましい目の健康習慣をお伝えすることで、日常に取り入れてもらう狙いです。

さらに、ご自身の療養生活の参考になるように、8つの症例を紹介しています。緑内障の発症や進行はさまざまなパターンがあり、突然の眼痛や飛蚊症で気付いたり、糖尿病の療養中に発覚したりするケースも。治療が順調に進んだ患者さまと、そうでない患者さまとを併せて掲載し、定期的な検査や治療の重要性をリアルに感じられる内容にしています。緑内障を包括的に理解できる、頼もしい一冊になったのではないでしょうか。

治療について理解し、積極的に参加してほしい

――最後に、患者さまや地域の皆さまへのメッセージをお願いします。
緑内障は一言でいうと「分かりづらい病気」です。視野が欠けていくという症状も気づきにくいし、頭で分かっていてもなかなか自分の病気という自覚を持ちにくい。しかし、緑内障の治療は、生涯続いていきます。「定期的に通院し、毎日忘れずに目薬を点眼するなんて大変…」と感じる方も多いかもしれません。しかし、それは大切な視力を守るために必要不可欠なこと。緑内障の病態を患者さま自身が理解し、積極的に治療に参加する姿勢が何より重要です。主治医と一緒に、家族や周りの人たちの力も借りながら、納得のいく療養生活を送っていきましょう。人生100年時代だからこそ、「上手に付き合い続けること」を忘れずにいてください。そのために私たちはチーム一丸となってサポートしていきたいと思っています。

 当院グループでは、ここ10年で緑内障治療の体制をバージョンアップさせてきました。各拠点に緑内障外来を併設し、最新の医療機器を揃えています。加えて、早期発見を目的とした眼科ドック、ドライビングシミュレータを利用した運転外来(西葛西)、そして視覚に障害のある方を支援するロービジョン外来など多様なアプローチを実施しています。少しでも不安なことがあれば、気軽にお声掛けください。

新刊本プレゼントのお知らせ

『いちばん親切でくわしい緑内障の教科書』を5名様にプレゼントいたします。下記お申込みボタンよりお申込みください。

本書では「緑内障になりやすいのはどんな人?」「緑内障になりやすい生活習慣とは?」をはじめ、種類や症状、進行、検査、治療法、症例など、病気を正しく理解するための情報を網羅しています。
緑内障の正しい知識を身に付けて「一生見える目」を手に入れましょう。

※お電話でのお申し込みは受け付けておりません。
※当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。

井上賢治著/世界文化社
四六判/224ページ
定価/1,760円(税込)

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